端子につなぐだけでは見えない、システムの設計。
プレーヤーをDSPへ、DSPをアンプへ、アンプをスピーカーへ。カーオーディオの構成は、大きく捉えればその流れで説明できます。しかし、どの信号をどの回路へ受け持たせるかまで考えると、同じ機材でも組み方には選択肢があります。
このV36スカイラインでは、BRAX DSPからRESOLUT M-DSPへ中枢を変更し、aune GTS3とGTC2を導入。アンプもARC AUDIO Cu 4.4の3台構成へ段階的に更新しました。
第3部でお伝えしたいのは、機器の顔ぶれに加え、その使い方です。MSTはこの一台で、DSPとアンプの内部回路のまとまりを踏まえ、左右のチャンネル分離を重視した割り当てを行っています。
音楽を送り出す入り口に、aune GTS3。
再生を担うのは、車載デジタルプレーヤーのaune GTS3。スピーカーやアンプに加えて、音楽を送り出す側にも専用機を組み込んでいます。
再生機器の選定では、単体の仕様と同時に、後段のDSPへどう信号を渡すかを考えます。プレーヤーとDSPは別の役割を持つ機器ですが、実際にはつながって働くためです。
このV36のシステムアップでも、音の出口だけを更新してきたわけではありません。再生の入り口、信号処理、駆動、スピーカーまでを、一台の構成として扱っています。
BRAX DSPから、RESOLUT M-DSPへ。
初期の構成で使用していたのは、シルバーのBRAX DSP。その後、ブラックのRESOLUT M-DSPへと更新しました。どちらも、このV36のシステムづくりを担ってきた機器です。
フロントの3ウェイ、追加ユニット、リア、サブウーファー。複数のスピーカーを扱う構成では、出力の数だけでなく、その出力をどのように使うかも設計の対象になります。
この一台でMSTが重視したのは、左右の信号をどこで分け、どの回路へ受け持たせるかという点でした。M-DSPの内部構成を、チャンネル割り当てにも生かしています。
更新前のBRAX DSP。システムの初期段階を支えた構成。
更新後のRESOLUT M-DSP。機器をラックへ収めた実際の施工状態。
左右を分ける。その単位を、内部回路まで。
左右のチャンネルセパレーションとは、簡単に言えば、左の信号と右の信号が互いに混ざりにくいことです。音源に含まれる左右の違いを再生するために、MSTが大切にしている視点の一つです。
RESOLUT M-DSPは、ESS Technology製ES9038PROを用いた独立したDACユニットを2基備えています。正規輸入元の仕様では、出力1〜8chと9〜16chを、それぞれ別のDACユニットが担当します。これはM-DSPの製品仕様として確認できる構成です。
このV36では、その2つのグループを左右で使い分ける考え方を採っています。端子番号の順に左右を交互に並べるのではなく、左側の信号と右側の信号を、DACの担当範囲も踏まえて振り分けています。
ステレオ再生を別の方式に変えるという意味ではありません。左右の音楽信号を、機器の内側でどう扱わせるかまで設計するということです。製品に備わる構成を、配線と設定へつなげています。
アンプも、内部のまとまりに合わせて使う。
パワーアンプはARC AUDIO Cu 4.4を3台。従来のARC AUDIOアンプから床面の2台を先に入れ替え、続いて壁面の1台も更新しました。
ここでも、空いている入力へ順番につなぐだけではありません。内部回路のまとまりに応じて、右側の信号を受け持つグループ、左側の信号を受け持つグループを考え、チャンネルを割り当てています。
設計上は、高周波成分の回り込みなど、回路間の相互干渉も意識しています。同じ回路グループの中に左右を混在させず、同じ側の信号をまとめる。DSPで考えた左右の分離を、アンプの使い方にもつなげるためです。
これは、左右間の干渉が完全になくなるという意味ではありません。機器の構造を踏まえて割り当てる、施工・設計上の配慮です。
床面の2台に続き、壁面も更新したARC AUDIO Cu 4.4の3台構成。
基準クロックにも目を向ける。
再生系には、クロックジェネレーターのaune GTC2も追加しています。対応する機器へ基準クロックを供給する製品です。
クロック伝送用のケーブルも、基準信号を安定して届けることを重視して選定しています。クロックジェネレーター本体だけでなく、接続条件に合ったケーブルまで含めて考える。それも、この一台の再生系づくりの一部です。
ここでいうクロックと、スピーカーから耳までの音の到達時間を調整するタイムアライメントは、別の話です。どちらも時間に関わりますが、機器内部の動作の基準を扱うことと、車内での音の到達をそろえることでは、対象が異なります。
クロックを追加する場合も、対応する機器や接続条件を含めて考える必要があります。すべての機器へ一律に追加するものではなく、このV36では再生系を構成する一要素として採用しています。
回路の考え方を、配線と調整でつなぐ。
左右の割り当てを決めたら、それが実際の配線と設定でも一貫している必要があります。DSPの出力、アンプの入力と出力、接続先のユニット。どこか一か所だけを見ていては、システム全体のつながりは分かりません。
また、電気的なチャンネル分離を重視することと、車内で自然な音像を得ることは、同じ一つの指標ではありません。車内には左右で異なる距離や取付条件があり、ガラスや内装の反射もあります。信号の扱いを考えたうえで、実車の条件に合わせる仕事が残ります。
第2部でご紹介したピラーの向きの見直しも、ここにつながります。物理的な取付、信号の割り当て、帯域やレベル、到達時間の調整。それぞれの役割を整理して、一台の再生へまとめていきます。
機器の内部を踏まえた設計も、最後に向き合うのはオーナー様が音楽を聴く車内です。MSTは、接続して正常に音が出ることだけを、音づくりの終点とは考えていません。
ハイエンドを、機材の名前だけで終わらせない。
このV36には、Morel、RESOLUT、aune、ARC AUDIOの機器が組み込まれています。ただ、その一台を説明するうえで欠かせないのは、製品名の外側にある仕事です。
ピラーの形と向きを作り直す。使い続けるスピーカーを移設する。配線を引き替える。そして、DSPとアンプの内部構成を踏まえ、左右の信号を振り分ける。製品を選んだ後にも、設計と施工の選択が続いています。
全3部でたどったのは、オーナー様と一台のシステムを育ててきた過程です。好きな音楽を愛車で楽しむこと、コンテストで入賞を目指すこと。その目標に向け、MSTは機材・製作・配線・調整をひと続きの仕事として考えています。
今ある機材の、使い方から考える。
機器を増やす相談だけでなく、現在の組み合わせや取付、調整についてもご相談ください。お乗りの車とシステム、ご希望の聴き方を伺い、全体の構成から考えます。
